تسجيل الدخول♢語り継がれる伝説と平穏の終わり
ギルドの酒場は、今日も冒険者たちの喧騒に包まれていた。だが、その話題の中心はいつになく一色に染まっている。実際にあの場にいた者たちが語る「体験談」は、もはやお伽話のような現実味のなさを帯びていた。「……ゴブリンの巨大な巣穴があっという間に殲滅されたんだ……。それに、あのワイバーンの群れ……空を埋め尽くしてたはずなのに、一瞬で消えちまった。キングオーガだって、オーガの群れだって、瞬きする間もなかったんだぞ……あの人を怒らせたら……終わる、何もかも全部だ!」
現場を目撃した男が、震える手でジョッキを煽りながら熱弁を振るう。その周囲には、信じられないといった面持ちの男たちが集まっていた。
「うちのリーダーなんか、あの子供相手に敬語だぜ。見てるこっちが背筋が寒くなったぜ!」
「まあ……それは、正しい判断だな。お前も、次からは敬語を使った方が良いんじゃないか? 下手をすれば死ぬぞ」
冗談とも本気とも取れない忠告に、男は青い顔をして頷いた。その一方で、別の男たちが溜息混じりに視線を遠くへ向ける。
「それにしても、あの横にいた可愛い嬢ちゃんのアレはヤバイな。あんな美少女なのに、恐ろしくて声も掛けれねぇ」
「そもそも声を掛けられたとしても、お前は相手にされないだろ!」
「お話くらいしたいだろ。俺は……それだけで幸せだしな!」
「ああ、気持ちは分かるな……。あの美少女とお話かぁ……んふふ、そりゃ誰もが思ってるだろ、男ならよ!」
鼻の下を伸ばす男たち。だが、そのやり取りに鋭い一喝が飛んだ。
「何度も何度も、言うけど! あんた達、余計な事はしないでよね。巻き込まれたくないわ!」
パーティの女性冒険者が、呆れたように釘を刺す。彼女だけは知っていた。あの二人の周りだけ、流れている空気の密度が明らかに違っていたことを。そして、あの少年が向ける視線の先には、常にあの少女しかいないということを。
♢扉の向こうの日常と、噛み合わない常識 依頼の完了とサナとの甘いディナーを終えた翌日。俺たちは宿の部屋で、特に出かける用事もなく、二人でベッドに転がって至福の時間を過ごしていた。窓から差し込む柔らかな陽光が、微睡みを誘うような暖かさを運んでくる。
サナは昨日のお返しと言わんばかりに、俺の腕を枕にして幸せそうに目を細めている。時折、子猫のように喉を鳴らしては、俺の二の腕に頬を擦り寄せてくるその無防備な姿が、たまらなく愛おしい。そんな穏やかな静寂を破るように、部屋のドアが控えめに、だがはっきりとノックされた。
(ん? 客人かな? 珍しいこともあるなぁ……)
名残惜しそうに俺の腕を掴んで離さないサナを、「ちょっと待ってて」と軽く頭を撫でて宥め、重い腰を上げてベッドから抜け出した。乱れたシャツの襟元を簡単に整えてドアを開ける。そこに立っていたのは、俺の専属のような形になっている、見慣れた顔の受付嬢だった。
「夜にすみません。お邪魔でしたか……?」
受付嬢の声はどこか上擦っており、申し訳なさそうに身を縮めている。だが、彼女の視線は俺を通り越し、吸い寄せられるように部屋の奥へと向けられた。
そこには、シーツを胸元まで引き上げただけの姿で、乱れた髪をそのままにだらしなく頬を緩めてこちらを眺めているサナの姿があった。あまりに無防備で、まるで愛の余韻を感じさせるようなその光景に、受付嬢はみるみるうちに顔を赤らめ、気まずそうに表情を強張らせる。彼女の持つ書類が、指先の震えでカサリと音を立てた。
「いや、ただゴロゴロしてただけですから……」
俺が困ったような苦笑いを浮かべて弁明すると、彼女は泳いでいた視線をようやく俺の胸元あたりに固定した。
「……お二人は、ホントに仲が良いのですね」
どこか遠い目をして、ひきつった笑みを浮かべる彼女に、俺は何の気なしに言葉を返した。
「まあ、同じパーティですし。仲が悪かったら同じベッドでは寝ないですよ」
俺にとっては、サナという唯一無二のパートナーと体温を分け合うのは、呼吸をするのと同じくらい自然なことだった。だが、受付嬢は頬を微かに赤らめ、困惑を隠しきれない様子で声を震わせる。その顔は、呆れを通り越してどこか悲鳴を上げているかのようにも見えた。
「同じパーティでも、仲が良くても……普通、同じベッドでは寝ないと思いますが……」
「……そうなの?」
俺が本気で首をかしげて聞き返すと、彼女は言葉に詰まったように口をパクパクとさせた。その隣では、ベッドの上のサナが「ふふん」と鼻を鳴らし、俺の枕を抱きしめ直して独占欲を隠そうともしない。
「そうです。……いえ、お二人の『絆』の深さは重々承知しておりますが……」
彼女は一度、深く溜息をついて居住まいを正した。熱を持った頬を落ち着かせるように何度も瞬きを繰り返し、仕事用の引きつった笑顔を無理やり作り直す。どうやら、俺たちの常識外れな距離感に突っ込むのを諦め、本題に入ることに決めたらしい。
♢琥珀の夜明けと不変の信頼(徐々に日が昇ってきた……キレイだ。山で朝日が昇るのを見るのは、前世も含めて初めてかもな) 空の境界線が濃紺から鮮やかな橙色へと溶け出していく。火山の荒々しい稜線が黄金色に縁取られ、噴煙さえも神々しく輝いて見えた。前世では画面越しにしか見ることのなかった絶景が、今は肌を刺す熱気と共にここにある。 俺が小さく伸びをしたその時、リーダーのテントの入り口がゆっくりと開き、眠い目をこすりながら彼が姿を現した。「おはようございます」 俺が自然な調子で声を掛けると、リーダーは一瞬驚いたように瞬きをし、それから恐縮したように深く頭を下げた。「おはようございます。見張りお疲れ様です。……まさか、一晩中お一人で?」「おはよう」 続いて出てきた男の冒険者も、俺の姿を見て感銘を受けたような表情を浮かべている。(ちゃんと見張りをしてた事になったぞ……) 内心で冷や汗をかきながらも、俺は「気にするな」とばかりに軽く手を振った。魔法の結界で守られていたとはいえ、彼らにとっては、この危険な地で自分たちの眠りを守り抜いた英雄に見えているのだろう。 やがて他のメンバーも次々と起き出し、手際よく焚き火を熾して朝食の準備を始めた。パチパチと薪が爆ぜる音が、火山の静寂を活気に変えていく。「そら……。もう起きていたのか。冷たいな、わたしを置いていくなんて」 テントの隙間から、まだ眠たげに目を細めたサナが顔を出した。朝露に濡れたアメジストのような瞳が、朝日を浴びてキラキラと輝いている。彼女は寝起きの無防備な足取りで俺の隣に座ると、当然のように俺の肩に頭を預けてきた。 昨夜の「報酬」の余韻か、彼女の纏う空気はどこか柔らかく、それでいて底知れない魔力が満ち足りたように安定している。「おはよう、サナ。すぐ出発だから、早く目を覚ませよ」「んふふ……お前の匂いがする。それだけで、もう目は覚めているぞ」 リーダーたちが湯気を立てるスープを配り始める中、俺たちは火山の頂、ファイアドラゴンが待つ最深部へと向かう準備を整え始めた。♢焦熱の進軍と前衛の交代「朝食を食べて、さっそく出発しましょう」 俺の言葉を合図に、手早く食事を済ませて出発の準備を整える。使い慣れたテントを魔法で片付け、マジックバッグに収めると、いよいよ本格的な登攀が始まった。 標高が上がるにつ
♢桃色の限界と冷えぬ火照り「嬉しそうじゃないな。もっと遠慮せずに、そらの好きなように……触っても良いぞ?」 サナはそう言って、さらに俺の指先をお腹の深みへと誘うように、ぐいと手を引き寄せた。指先に伝わる柔らかさは増し、彼女の無邪気なまでの誘惑が、俺の理性の防波堤を今にも決壊させようとしている。(勘弁してください。そろそろ限界です……) これ以上この感触を味わい続ければ、理性が焼き切れてしまう。俺は沸騰しそうな脳内を必死で鎮めながら、意を決して彼女の手を緩めた。「そろそろ出るよ。ありがと……気持ち良い触り心地だったよ」「……ん? もう良いのか? それだけで満足したのか?」 サナは名残惜しそうに、大きなアメジストの瞳を潤ませて見上げてきた。その潤んだ瞳と、お湯から覗く白い肌のコントラストは毒が強すぎる。(これ以上くっついてこないでくれ!)「ボクは、先に風呂から出て待ってるね」 強引に立ち上がり、俺は前をタオルで隠しながら、逃げるように洗い場へと向かった。背後でサナが「むぅ……そらは気が早いな」と呟く声が聞こえたが、振り返る余裕なんて微塵もなかった。 脱衣所へ飛び込み、急いで服を身に纏う。清涼な布の感触が、火照りきった肌に心地よい。(はぁ……。落ち着いた……) 大きく息を吐き、ようやく心臓の鼓動が緩やかになっていくのを感じる。鏡に映る自分の顔は、火山の熱気よりも赤く染まっていた。 しばらくして、サナも満足したのか、あるいは少し寂しくなったのか、湯気を纏いながら浴室から出てきた。♢湯上がりの夜風と魔王の課題 浴室から出てきたサナを呼び止め、まだ湿り気を帯びた彼女の背中をタオルで拭うのを手伝う。白磁のような肌は湯上がりの熱を湛えていて、指先が触れるたびに、先ほどまでの「柔らかさ」の記憶が鮮明に蘇り、また少しだけ鼓動が速くなった。 着替えを済ませると、俺たちは再び転移を使い、火山の夜営地に張ったテントの中へと戻った。周囲はすっかり夜の静寂に包まれ、時折、遠くで火山の地鳴りが低く響いている。「お風呂、良かったなぁ! そらとの触れ合いも、最高だったぞっ♪」 テントの中、サナはふかふかの寝具の上に寝転がり、幸せそうに手足を伸ばした。「あ、うん。そうだね。疲れたけど」「疲れたのか? 大丈夫か? 今日は何も討伐はしてないぞ」(美少女のサナさん
腕を動かせば、ぎゅぅと密着た腕に伝わるその瑞々しい柔らかさが、ぬるりとしたお湯の感触と共に全身の神経を逆撫でする。華奢な体つきからは想像もつかないほど、その部分は確かな存在感を主張し、俺を優しく、けれど逃れられない檻のように包み込んでいた。「んふふ……。そらの腕、すごく熱くなっているぞ。……どうした、顔まで真っ赤ではないか」 サナはいたずらっぽく微笑むと、さらに深く、俺の腕を自分の胸の谷間へと沈めさせた。潤んだアメジストの瞳が至近距離で揺れ、濡れた睫毛が瞬くたびに、甘い毒のような誘惑が俺の理性を溶かしていく。「……我慢したのは、昼間だけだ。今はもう、わたしを抑えるものなど何もないぞ?」 湯気の中で、彼女の吐息が俺の頬を熱く撫でた。♢秘湯の誓いと桃色の余韻「我慢してたのか。そ、それはスゴいな……エライな!」 俺は照れ隠しも半分に、彼女の濡れた髪をかき分けるようにして、その小さな頭を優しく撫でた。 すると、その表情は一瞬でパァッと明るくなり、まるで春の陽光を浴びた花のように満面の笑みが咲き誇る。アメジストの瞳が歓喜に揺れ、俺の手に擦り寄るように甘えて頭を預けてきた。「ご褒美のキスはないのか?」(え、そんなシステムになってるの?) あまりに当然のように、そしてあまりに可愛らしく小首を傾げて強請られ、俺の鼓動はさらに一段階ギアを上げた。湯気のせいだけではない熱が全身を駆け巡る。 至近距離で見つめてくる彼女の肌は、お湯に温められて柔らかな桃色に染まっている。俺は意を決して、その熱を帯びた、吸い付くような感触の頬にそっと唇を寄せた。「……はい、ご褒美」 触れた瞬間に伝わる、マシュマロのような柔らかさと瑞々しい質感。彼女は一瞬、驚いたように目を丸くしたが、すぐにトロンとした甘い顔をして、俺の腕にさらに強く抱きついてきた。「おぉー、これで明日も頑張れるなっ!」「それは良かった」 自分の戦果を誇るように胸を張り、俺の腕を包み込む柔らかな感触をさらに強調させてくる。その無邪気さと、時折混じる確信犯的な色香のギャップに、俺はもう降参するしかなかった。♢湯煙の唇と魔王の独占欲「そらにもしてやるぞ」 返事をする間もなかった。強引に引き寄せられたかと思うと、目の前がアメジストの色彩で塗りつぶされる。 触れたのは、桜色をした、驚くほどぷるんとした柔ら
俺が念じたのは、俺の配下である最古のドラゴンの王・ドラキンの縄張りで、最初に住んでいたあの懐かしい家。——転移。 一瞬の浮遊感の後、視界に広がったのは、火山の乾燥した空気とは無縁の、清涼な魔力に満ちた懐かしい光景だった。ドラキンの気配が遠くに感じられる、静謐な隠れ家だ。「ここは……?」「ボクの原点みたいな場所だよ。ここなら、最高のお風呂があるんだ」(俺の始まりの場所。転生して……ここから、全てが始まったんだよな) 俺は不満げだったサナを促し、木造りの温もりがある浴室へと向かった。湯気が立ち上る浴槽には、ドラゴンの魔力によって温められた、万病を癒やすとされる名湯が満ちている。「そら、一緒に入るぞ。……当然だろう?」 サナは服を脱ぎ捨てると、まだ泥のついた足のまま、けれどどこか嬉しそうに俺の腕を掴んできた。 二人で湯船に浸かると、まとわりついていた汚れがさらりと溶け出していく。白く滑らかなサナの肌が露わになり、お湯に濡れたアメジストの瞳が、湯気越しに熱っぽく俺を捉えた。「ふふ……極楽だな。泥の不快感など、一瞬で吹き飛んでしまった」 サナは俺の胸に背中を預け、ぷかぷかと浮かぶように身を委ねる。浴室に響くのは、心地よい水音と、二人の静かな吐息だけ。火山の夜営地でリーダーたちが今頃首を傾げていることなど、今の俺たちにはどうでもいいことだった。♢湯煙に咲く紫のアメジスト(相変わらず細く、胸はふっくらとしてスタイル良いですなぁ……) 湯気で白く霞む浴室の中で、俺は何度目かもわからない感慨に耽っていた。隣に座り、丁寧に体を洗うサナの姿を盗み見るたび、こんな至高の美少女と一緒の湯船に浸かっている自分の境遇が、奇跡を通り越して何かの間違いではないかとさえ思えてくる。 サナが、洗い終えたばかりの白磁のような肌を輝かせて、俺の隣へと滑り込んできた。 お湯から覗く彼女の肩先は、華奢でありながらも瑞々しい質感を湛えている。濡れて肌に張り付いた髪の隙間から見えるうなじは、驚くほど白く細い。だが、その繊細なラインとは対照的に、豊かな膨らみを帯びた胸元が、お湯の浮力を受けてゆったりとした曲線を描き出していた。 きゅっと引き締まった細い腰から、お湯の中でなだらかに広がる太もものライン。それは、少女特有の初々しさと、魔王としての神秘的な色香が絶妙な均衡で混ざり合った
普段の彼女なら、俺の視線に気づいた瞬間に「どうだ? 今日のわたしは可愛いか?」と、これ見よがしにポーズを決めてくるはずだ。だが、今の彼女はどこか様子が違った。膝を抱え、少しだけ火照った顔でじっと焚き火を見つめている。「肉か、わたしが焼くか? 肉を焼くくらいできるぞ!」(ん? なんだか、いつもと違うぞ……どうしたんだ!?) 不意に提案された言葉に、俺は思わず動きを止めた。いつもなら俺に甘えること、俺に何かをしてもらうことを至上の喜びとしている彼女が、自ら進んで「焼く」と言い出したのだ。「サナ大丈夫か? 何かあったの?」「大丈夫だぞ? 何もないぞ」「なら良いんだけど……」 サナは火の粉を散らす焚き火に向かい、慣れない手つきで串に刺した肉をかざし始めた。その横顔は真剣そのもので、時折、熱気に耐えるように瞳を細めている。(もしかして……昨日のディナーや、さっきの『喜ばせる』って言葉を気にしてるのか?) 俺を喜ばせるために、彼女なりに「尽くそう」としているのかもしれない。そう思うと、彼女の不器用な献身がたまらなく愛おしくなった。 俺はサナが肉を焼いてくれている間に、アイテムボックスから熱々の出来立てのスープを取り出し、彼女の隣にそっと置いた。「ありがとう、サナ。これ、飲みながらやって。火の側は暑いだろ?」 サナは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにアメジストのような瞳を蕩けるように細めて俺を見上げた。「……ん。そら、優しいな……」 彼女はスープの湯気に包まれながら、幸せそうに、けれどどこか照れくさそうに肉を焼き続ける。背後ではリーダーたちが、俺たちの放つ独特の「新婚のような空気」に、どう反応していいか分からず必死に肉を咀嚼する音だけが響いていた。♢紫煙の誓いと健気な献身 サナが慣れない手つきで一生懸命に焼き上げた肉を、一口運ぶ。 表面は香ばしく、中は驚くほどジューシーで、塩加減もこれ以上ないほど絶妙だった。「……すごく旨いよ、サナ。上手に焼けてるよ!」 俺がそう告げると、サナはパッと顔を輝かせたが、すぐに照れ隠しをするように視線を落とした。今日の彼女は、いつもの自信満々で奔放な「魔王様」の面影がどこか遠い。アメジストのような瞳を潤ませ、俺の顔色を伺うようにチラチラと盗み見ては、甲斐甲斐しく世話を焼いてくる。「そら、口元にタレがつ
「それと、もう出発するけど……良いの?」「準備は出来ています」 リーダーの答えは即座に返ってきた。足元を見れば、確かに旅の支度は完璧に整っている。俺が来るのを確信して、ギルドの裏で待機していたのだろう。「今回はファイアドラゴンだけど大丈夫? 出現するかもよ」 一応、念を押してみる。鱗の採集とはいえ、相手は伝説級の魔物だ。生半可な実力では、遭遇した瞬間に塵も残らず焼き尽くされる。「覚悟は出来てます」 男のその言葉に、嘘偽りはないようだった。死への恐怖よりも、高みを目指したいという冒険者としての矜持が勝っている。「……そら、どうするのだ? わたしは、お前さえ良ければ、この者たちの羽虫のような羽音くらいなら我慢してやるぞ」 サナは少しだけ不服そうに、けれど俺の判断を尊重するように寄り添ってくる。彼女にとっては、俺との二人きりの時間を邪魔されるのは本意ではないだろうが、俺が許可を出すなら異論はないといった様子だ。「分かった。じゃあ、一緒に行こう。ただし、自分の身は自分で守ってくれよ」 俺が頷くと、彼らは一様に安堵したような、それでいて新たな戦場へ向かう高揚感に満ちた表情を見せた。♢灼熱の麓と再度の案内「じゃあ行こうか。って……みんなで移動するなら、馬車を探さないとだよな」 ふと思い立って口にすると、リーダーは待ってましたと言わんばかりに頷いた。「馬車の手配は出来ています」「準備良いね。助かったよ!」 俺が感心して告げると、彼は少しだけ誇らしげに表情を緩めた。そのまま彼らが手配していた馬車に揺られること二日間。街道を抜け、景色が次第に荒涼とした岩場へと変わっていく。辿り着いた先には、以前の山とはまた違う、噴煙を上げる禍々しい巨躯がそびえ立っていた。「リーダーは、今回の目的地も詳しいの?」 馬車を降り、乾燥した熱気に目を細めながら尋ねる。「何回か別件で訪れた事があります」「案内も頼めるかな」「お任せください! また、途中で夜営になります。準備は大丈夫ですか?」 リーダーの頼もしい返答に、俺は隣で「ふむ、また野宿か……」と、どこか楽しげに俺の腕を引き寄せている彼女の感触を確かめながら頷いた。「うん。問題ないよ」「では、行きましょうか」 一行は再び、リーダーを先頭にして険しい山道へと踏み出した。足元からは地熱が伝わり、空気は微かに
(え? 俺は、いったい何を頼まれたんだ!?) 唐突に投げかけられた言葉の真意を測りかね、思考が停止する。だが、その声に含まれた微かな震えと、縋るような熱量に、俺の答えは決まっていた。「え、うん」 咄嗟にそう引き受けてしまったが、後悔はない。元々、この寂しがり屋な魔王の面倒は一生見ていくと心に誓っていたのだ。それが「神をも越える」存在としての役目なのか、あるいは彼女の言う「未来の旦那様」としての務めなのかは分からないけれど。「……んふふ、言ったな? 約束だぞ」 サナは満足げに喉を鳴らし、俺の顔を自分のお腹にさらに深く押し当ててくる。至近距離で見える桃色にハート柄のパンツと、柔らかすぎ
「一緒にいて良いでしょ! もしかして、嫌いにでもなっちゃったの?」 思わず身を乗り出して聞き返すと、サナは弾かれたように叫んだ。「嫌いなわけないだろ!!! ……ただ、その、恐れ多くなっただけだ……」「え? サナが?」 あの不敵な笑みを絶やさない彼女が、恐れ多いなんて。俺の言葉に、サナは居心地悪そうに視線を泳がせ、真っ赤になった耳を隠すように顔を伏せた。「ああ、ちょっとだけな……。魔王なんて、そらの前ではただの小娘に見えてしまうんじゃないかと思って……」「あははは……」 さっきまで俺に「パンツを見せないぞ!」と脅していた威厳はどこへ行ったのか。神を越える職業という文字の重みが、彼
「そら……。そんな顔をして……わたしをどうするつもりだ?」 視界の端では、リーダーたちが窓の外の景色に気を取られている。そのすぐ傍らで、俺たちは誰にも知られない、密やかで濃厚なやり取りに身を沈めていた。♢琥珀色の晩餐と甘い罠 ギルドでの報告を済ませ、かなりの額の報酬を懐に収めた俺たちは、街で一番と評判の高級レストランへと足を運んだ。 キャンドルの炎が揺れる落ち着いた店内で、豪華なコース料理と芳醇な香りのブドウジュースを楽しむ。だが、何よりも贅沢だったのは、俺の目の前で満足げに微笑む彼女の姿だった。「どうだ、そら。似合っているか?」 食事が終わり、宿に戻ると、サナはさらに着替えてみ
「どうしたのだ? 機嫌でも悪いのか……?」「何となく、可愛らしく柔らかそうな頬が見えたから……引っ張ってみた」「うぅぅ……痛かったぞ!」 不満げに唇を尖らせる様子があまりに愛らしくて、つい頬を緩めてしまった。「悪かった。ついな」 指を離して謝ると、赤くなった頬をさすりながら、今度は獲物を狙うような熱を帯びた瞳で俺を捕らえた。「……謝罪だけじゃダメだ……キスを所望するぞ!」 真っ直ぐな、けれどどこか切実な要求。その言葉に抗えるはずもなく、俺は促されるままに、桜色のぷるんとした唇へと軽く自分の唇を重ねた。 触れるだけの、挨拶のようなキスのつもりだった。だが、離れようとした瞬間に細







